クルトヒュムネス

第三章 新世界記【ソル・クラスタ ヒュムネス海岸の石碑】
聖詩:Ec Tisia

全ての、わたしたちの子供達へ。
これからの世界を担う、全ての子孫へ。

ソル・クラスタの浜に船が辿り着いたその日から、世界は新たな時代を迎えた。
神と対話した時代は終わりを迎え、人々は独り立ちし、皆で協力し合い、これからの世界を創っていかねばならない。

新たな時代を迎えた事の証として、ここに、神と人との契りを記す。

遥か昔、神は人を造り、人は神の望む成長をしていた。
だがある日、人は神の思惑から外れた成長をし始めた。
人はそれを赦した。しかしそれがすべての災いであった。
人は詩の力を極めようとした。
その為に自ら神となり、天まで届く塔と、謳う命を造った。 塔はアルトネリコと呼ばれ、生命はレーヴァテイルと呼ばれた。 そして、これらはアルシエルを粉々にした。

だが、レーヴァテイルが問題なのではない。
人は、自らが管理出来ない火を操ってはならないのである。
それはまた、神にとっても同様である。
人はレーヴァテイルと、管理出来ない火を造り出すアルトネリコを造るべきではなかった。
それと同じく、神は人に詩の力を与えるべきでは無かった。
以後神と人は、両者共にその事を反省し、その力を封印する事にする。
人は、大地におけるヒュムネを捨て、お互いの想いを尊重し、争いの無い世界を創ることを誓う。
神はそれを見守り、生きとし生けるこの地上の生命を、常に災厄から守ることを誓う。

そして神と人は、ここに永遠の別れを決するものとする。
ワス・イェ・ラ・チス・ヒュムノス・ミーア。
神も人も、永遠に栄え、永遠に幸せであらんことを。

宣誓 旧暦三七七六年
新光歴元年

那由他羅
六冠
零獅姫

ライナー・バルセルト
クロア・バーテル
蒼都・架種上帝門

P106

第三章 番外編【神と対話した時代の聖帝の掟】
聖詩:chmod b111000000/n

これは、神と対話した詩の物語では無いが、興味深い資料として、ここに周知するものである。
神と対話した時代、そのクラスタと呼ばれる地方で、最も気高き、聖なる存在と呼ばれていた聖帝の、愚民と呼ばれた最下層階級の人間に対する戒告書である。
ここには様々な掟が書かれているが、主に愚民の罪に対する罰についてが大半となっている。
一般民衆とは分けて愚民が存在するということは、この時代、人々は厳しい階級社会の中に生きていたということの現れである。
愚民の信条
一、愚民は常に妾に頭を向け寝るべし。しかし立ちて睡眠するは、尚良し。
二、愚民は決してクラスタニアへ侵入する事なかれ。
三、愚民は妾の命じた年貢を、如何なる事由にかかわらず、支払うべし。
四、愚民は妾の前で口を開け話すべからず。雑菌をばらまくは重罪なり。
五、愚民は1日1回以上妾の名を呼び、万歳斉唱を義務づける。
以上、信条を遵守出来ない愚民には、容赦ない再教育と廃棄を行うべし。
それは、妾の主催する裁判によってのみ裁かれ、その罪の重さを決定するものなり。大罪を持つ愚民には、以下の罰を処すべし。
一、産業廃棄物とす。
二、市中引き回しの上、産業廃棄物とす。
三、雑巾化の後、聖所を隅々まで百遍拭き取った後、産業廃棄物とす。
四、妾の守護者の餌とす。
五、粉々に分離の後、畑の肥料とす。
六、産業廃棄物とした後、風の藻屑とす。
七、瞬間的に産業廃棄物とす。
尚、浄化で済む軽罪の愚民は洗脳による再教育とするが、作業愚民が必要無き場合は迷わず産廃処分とす。

P109

あとがき

今、この地球には伝承と呼ばれるものが無限に存在します。各国ごとに数百、数千はくだらないでしよう。特に古い国ほど存在し、日本にも数え切れないほどの伝承があります。そしてそれらの伝承は、どれもこれも、真偽の程が分からないものばかりです。人の歴史は語り継がれて、書き綴られて創られてきました。人が人に伝えているわけですから、見た人や書いた人が伝えるそれが、嘘か本当か、伝えられた人は分かる筈なのです。ですが、面白い事にそれが10世代も続くと、なぜか嘘か本当かも分からなくなってしまうのです。その「嘘か本当か分からないもの」をまた編纂し、新しい時代の伝承として書き留めるものだから、もうたちが悪い。まやかしの術を使っているがごとく、もはやその真偽を確かめる事は出来ないのです。
わたしたちは過去に戻れませんから、実際にその伝承が本当かどうかを確認する事は出来ません。古事記が史実かどうかを確認する方法があれば、どんなに素晴らしい事でしょう。ですが、ゲームの世界ならそれを体験できます。皆さんは、その「伝説と言われた時期」でロールプレイし、世界を救った勇者となったわけですから。その貴方のプレイは、アルシエルの人々によって永遠に語り継がれていくのです。そしてその数千年後、惑星アルシエルで本当にあった「世界を救った物語」そして「惑星を再生した物語」が伝えられて本となったのが、このクルトヒュムネス~神と対話した詩~です。自分が作った歴史がどのように伝えられ、どのように人々に認知されているのかというのは、本来は自身で確かめる事は出来ません。ですから、それを見る事が出来るというのは、とても興味深い事である筈です。
今回はそんな想いから、数千年後のアルシエルに住む人達が、ライナーやクロア、アオトが活躍した時代、本当にこのアルシエルが滅亡しかけた時代のお話が、どのような物語で伝えられているのか、それを書いてみました。物語ごとに、あまり事実と変わらないものから、何かの力によってねじ曲げられているもの、果ては違うお話になってしまって原型を留めていないものなど、色んなものがあります。でも、伝承というのはきっとこんな感じなのでしょう。時には正確に、時にはいくらかねじ曲がって伝わっていくのではないでしょうか。
今回の「神と対話した詩」の伝承物語も、その伝わった地方や、それが書かれた時代、そしてソースが全く違うものであるということを意識して制作してみました。数千年後の世界の人達になったつもりで、自分がしてきた冒険をもう一度振り返ってみては如何でしょうか。
伝承には夢があります。もしかしたら本当に過去には、こんな世界が存在していたのでは?と想いを馳せる夢があります。もちろん完全な作り話もあるでしょうが、幾つかの物語は、脚色されつつも過去に実際に起きた事であると信じて止みません。火が無いところに煙は立たぬ、という言葉があるくらいですから。 土屋 暁